路上の雄叫び

路を歩いていたら「漫画」らしき本が落ちていた。

黄色いブックカバー。
表紙を下にして植え込みと植え込みの間、雑草の延び始めた芝の上に打ち捨てられていた。

私は一瞬歩調を緩め、拾おうかどうしようか考えた。
気になる。なんの本だろう。
単行本だ。
あんな「まっ黄色」の表紙の漫画ってあっただろうか?もしかすると「芸能人の書いた本」か?まさか小説って事はあるまい。

気になる。

しかし気になるのは「本」だけじゃなくて前から続々と歩いてくる人の目。
いくらなんでも「なにげなく」拾える状態ではない。
なにしろすでに手には別の本を開いていて、それを読みながら歩いていたのだから。

いくら歩みを緩めたとはいえ、もうすでに通り過ぎるしかない地点。
気になる。
もしかすると変わった形状の「エロ本」か?
なにやら写真のページがありそうな雰囲気。

ああ、だが、もしそうであればますます拾うわけにはいかない。
こんな老若男女が跋扈する路上で大の男が「エロ本」を拾う事なんてできるかっ!
できないけど、そう思うと、ますます中身が知りたくなってしまったじゃないか。

若かりし頃多くの男達は「道に落ちているイカガワシイ雑誌」を拾った記憶があるはずである。
初夏の爽やかな風が吹く川土手。自転車をこいでいると木陰になにやら見え隠れするグラビアの写真。前後を確認し、人の気配の無い事がわかると、そっとスニーカーのつま先でページをめくってみる。
夜露に濡れて上手くめくれないページにイライラして手を伸ばす。ほのかな罪悪感。
もう一度辺りを見渡し、急いで自転車の前籠に突っ込んで走り出す。土手を疾走する。

そして誰にも邪魔されない場所で中身を吟味するひと時・・・。無いとは言わせませんよ。

そんな想いが走馬灯の様に(死ぬのか)めくるめいているうちにとうとう通り過ぎてしまった。
名残惜しい。

ああ、あなたはどんな書物だったのか!
この僅かな出会いのチャンスを私はみすみす逃してしまった。
ほんのちょっと、あとほんの少しの勇気さえあれば。

打ち合わせ先のライターの女の子にその話をしたら
「汚いからそんなの拾おうとするなっちゅーの!」と言われた。
ごもっともです。
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by gqgweb | 2004-05-28 21:55 | ■日常感想